セミパーソナルジムを開業するにあたり、トレーナーとは雇用契約ではなく、業務委託契約を結びました。
業務委託にしたのは、単に人件費を変動費にしたかったからではありません。トレーナーへ店舗運営を任せ、現場で大きな裁量を持ってもらいたいと考えたからです。
一方で、単に「店舗運営をお願いします」と伝えるだけでは、オーナーとトレーナーの役割が曖昧になります。
そこで契約書を作成する前に、店舗運営の範囲、オーナーが担当する業務、報酬、顧客情報の管理などを整理しました。
業務委託にしたのは、店舗運営を任せるため
オーナーが店舗に常駐し、トレーナーの勤務時間や仕事の進め方を細かく管理する形にはしていません。
営業時間や営業曜日など、店舗としての基本的な方針については事前に合意します。その範囲内で、日々の店舗運営についてはトレーナーが判断できるようにしました。
トレーナーが担当する業務には、主に次のようなものがあります。
- 会員へのトレーニング指導
- 体験者への対応
- 入会手続き
- 会員のフォロー
- 予約枠と体験枠の設定
- 店舗の開閉
- 清掃や備品の確認
- 問い合わせへの対応
- サービス品質の改善
- 店舗運営状況の報告
特に裁量を持たせたのが、予約枠の設定です。
会員が利用しやすい時間帯や、体験後の説明と入会手続きに必要な時間は、実際に現場へ立つトレーナーの方が把握しやすいと考えました。
そのため、トレーニング内容だけでなく、予約枠、体験枠、休日についても、基本方針の範囲内でトレーナーが決められる設計にしています。
予約システムを自作した経緯については、第8号「Claude Codeでジムの予約システムを自作した話」でも紹介しています。
SNSとGoogleビジネスプロフィールはオーナーが担当する
契約書上は、将来の運用変更にも対応できるように、SNSやGoogleビジネスプロフィールなどの集客・広報活動も委託可能な業務の範囲に含めました。
ただし、契約書に記載された業務を、常にすべてトレーナーへ任せるという意味ではありません。
実際には、開業当初からSNSとGoogleビジネスプロフィールはオーナーが担当しています。
現在の基本的な役割分担は、次のとおりです。
オーナーが担当すること
- 広告の企画と運用
- チラシなどのプロモーション
- SNSの運用
- Googleビジネスプロフィールの運用
- ホームページやLPの整備
- 予約システムなどの仕組みづくり
- 必要な器具や備品の準備
- 価格やキャンペーンの最終決定
- 店舗環境の整備
トレーナーが担当すること
- 体験者への対応
- 会員へのトレーニング指導
- 予約枠の設定
- 会員のフォロー
- 店舗の開閉や清掃
- 備品の確認
- 店舗内のサービス改善
- 日々の店舗運営
オーナーは、近隣の方にジムを知ってもらい、体験へ来てもらうところまでを主に担当します。
トレーナーは、体験者や会員の目的に合わせてトレーニングを行い、継続して通ってもらえる店舗をつくります。
契約書上の委託可能範囲と、実際の運営上の役割分担は必ずしも同じではありません。契約書には対応可能な範囲を定めたうえで、現在は誰が何を担当するのかを明確にしておくことが重要だと考えました。
固定報酬と売上連動報酬を組み合わせた
トレーナーへの報酬は、固定報酬と売上の一定割合を組み合わせています。
固定報酬を設けた理由の一つは、トレーナーが一定の収入を確保し、心理的な安全性を持った状態で指導へ集中できるようにすることです。
売上だけに連動する報酬では、開業直後のように会員数が少ない時期の収入が不安定になります。収入への不安が大きい状態では、長期的な視点で店舗運営へ取り組むことも難しくなります。
もう一つの理由は、トレーニング指導以外の日常的な店舗運営業務にも、きちんと対価を支払うためです。
店舗を営業するには、指導だけでなく、次のような仕事も必要です。
- 開店と閉店の対応
- 店内の清掃
- 備品や設備の確認
- 予約枠の調整
- 体験者や会員からの問い合わせ対応
- 店舗環境の維持
- 日々の運営上の判断
これらは店舗に欠かせない仕事ですが、必ずしもその日の売上へ直接表れるものではありません。
報酬を売上連動だけにすると、こうした日常管理業務への対価が曖昧になってしまいます。そのため、日々の店舗運営を担ってもらうことへの対価としても、固定報酬が必要だと考えました。
一方、固定報酬だけでは、店舗の売上が増えてもトレーナーの報酬へ反映されません。
そこで、固定報酬によって日常管理業務への対価と心理的安全性を確保しながら、売上の一定割合も報酬へ反映する形にしました。
売上連動報酬には、単に売上を増やしてもらうだけではなく、トレーナーに「この店舗を自分のジムとして盛り立てていく」という感覚を持ってもらいたいという狙いがあります。
会員の満足度を高め、継続して通ってもらえる店舗をつくった結果として、トレーナーの報酬も上がる仕組みにしたいと考えました。
料金プランを決めた過程については、第3号「セミパーソナルジム開業時の料金設定」で紹介しています。
顧客情報はオーナーが管理する
役割と報酬に加えて、契約上重視したのが顧客情報の管理です。
氏名、連絡先、契約状況などの顧客情報は、基本的にオーナーが管理します。
ただし、トレーニングを安全に行うためには、トレーナーにも必要な情報を共有しなければなりません。
そのため、既往歴や運動時の注意事項など、指導に必要な情報はトレーナーへ共有する一方、必要以上の顧客情報を扱わせない方針にしました。
誰が顧客情報を管理し、どの情報を現場へ共有するのかを事前に決めておくことで、情報管理の責任が曖昧になることを防いでいます。
先に大筋合意書を作成した
正式な契約書をいきなり作成したわけではありません。
最初に大筋合意書を作り、次のような主要条件をトレーナーへ提示しました。
- オーナーとトレーナーの役割
- 店舗運営で認める裁量
- 報酬の考え方
- 顧客情報の管理
- 契約期間
- 契約を終了する場合の手続き
この段階で主要条件について合意し、その内容を基に正式な業務委託契約書を作成しました。
契約書はAIを利用して作成し、トレーナーにも全文を確認してもらいました。大筋合意書の段階で条件を示していたため、正式な契約書に対する質問や修正依頼はありませんでした。
今回は私人間の契約であり、弁護士には契約書の作成やレビューを依頼していません。
ただし、AIで作成した契約書が、そのまますべての店舗や契約関係に使えるとは考えていません。
契約内容や実際の働き方によっては、契約書の名称が業務委託であっても、実態から労働者に該当すると判断される可能性があります。また、取引条件の明示など、フリーランスとの取引に関する法令への対応が必要になる場合もあります。
個別の事情によって判断が変わるため、不安がある場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家へ確認する必要があります。
参考:
業務委託契約は、仕事を任せるための設計図だった
今回の業務委託契約で重視したのは、トレーナーを細かく管理することではありません。
オーナーとトレーナーの役割を分けたうえで、現場のことは現場で判断できるようにすることでした。
オーナーは、集客、プロモーション、設備、システムなど、店舗運営の土台を整えます。
トレーナーは、その環境を使って体験者や会員に向き合い、トレーニング指導だけでなく、清掃や予約管理を含む日々の店舗運営を担います。
そのうえで、固定報酬によって日常管理業務への対価と心理的安全性を確保し、売上連動報酬によって店舗への所有感を持ってもらう設計にしました。
契約書は、問題が起きたときだけ使うものではありません。
誰が何を担い、どこまで自分で判断できるのかを共有し、安心して仕事を任せるための設計図でもあると感じています。
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