※この記事は、店舗を開業する前に料金プランを設計した時点の記録です。開業後の運営実績を評価するものではなく、通い放題という仕組みを一般的に否定するものでもありません。
セミパーソナルジムの開業準備で、特に迷ったことの一つが料金設定でした。
集客だけを考えれば、毎月一定の料金で何度でも利用できる「通い放題」は分かりやすい仕組みです。料金を抑えれば、「たくさん通うほど得になる」と訴求することもできます。
それでも、今回の店舗では通い放題ではなく、月ごとに利用回数を決める方式を選びました。
理由は、入会時のお得感よりも、入会後に無理なく予約を取り、運動を続けられる状態を優先したかったからです。
この記事では、次の点をまとめます。
- 通い放題を採用しなかった理由
- 予約の取りやすさと運動継続の関係
- 週1回から週3回までのコースをどう考えたか
- サービス内容と収支から料金を決めた手順
店舗を始めるまでの全体像や資金計画、物件選びについては、会社員がセミパーソナルジムを開業するまで|資金計画と物件選びの実録でまとめています。この記事では、その中から料金設計に絞って掘り下げます。
集客だけなら通い放題は魅力的に見えた
通い放題には、料金体系を説明しやすいという利点があります。
利用者にとっては、通う回数が増えても追加料金が発生しない安心感があります。事業者にとっても、低価格と通い放題を組み合わせれば、広告で分かりやすく訴求できます。
開業準備中には、周辺で営業しているジムの料金やサービスも調べました。価格だけを比べれば、低価格の通い放題は強い選択肢です。
ただ、料金プランは入会してもらうためだけの仕組みではありません。入会後の予約、店舗の混雑、トレーナーの稼働、そして運動を継続できるかどうかにも影響します。
そのため、集客時の分かりやすさだけで決めることはできませんでした。
通い放題で生じる予約の取りにくさを懸念した
競争環境を整理するため、いわゆる「5つの力」の観点でも事業を考えました。競合の価格だけでなく、顧客、代替サービス、トレーナーの確保などを含めて整理する中で、通い放題を採用した場合の運営上のリスクが見えてきました。
会員数が少ない間は問題がなくても、利用者が増えるにつれて、平日の夕方や休日などの人気時間帯に予約が集中する可能性があります。
予約が取りにくくなれば、既存の会員には不満が生まれます。新しく入会を検討している人にとっても、「希望する時間に通えないジム」は選びにくいはずです。
集客のために導入した仕組みが、会員数の増加とともに顧客満足度を下げる原因になるかもしれません。
その状態は避けたいと考えました。
予約のしやすさは運動の継続にも関わる

予約が取りやすく、曜日と時間が定着すると、運動を続けるための判断負担を減らせます。運動を習慣にするには、そもそも「今日はジムへ行く」という最初のハードルがあります。
そこに「予約できる時間を探す」という作業まで加われば、続けるための負担が一つ増えます。
せっかく運動しようと思っても、希望する時間が空いていない。別の日を探しているうちに、今週は行かなくてもよいかと思ってしまう。
継続に価値を置くジムをつくろうとしているのに、予約の仕組みが継続を妨げれば、サービスの考え方と矛盾します。
私たちが目指したのは、毎回空いている時間を探してもらう運営ではありません。
できれば、毎週ある程度決まった曜日と時間に予約を入れ、生活の中にトレーニングの時間を組み込んでもらう。そのうえで、予定がある週には別の時間へ変更できる程度の自由さを残す。
「いつ行けるかを毎回考える」のではなく、「この曜日のこの時間はトレーニング」と決められる方が、運動を習慣にしやすいのではないかと考えました。
そのためには、まず予約を無理なく取れる状態を維持する必要があります。
トレーナーの稼働も料金設定に含めて考えた
通い放題を採用しなかったもう一つの理由は、トレーナーの稼働です。
少人数制のトレーニングでは、同じ設備とメニューが用意されていても、トレーナーの説明、観察、声かけによって体験は変わります。
会員数が増え、トレーナーが休む間もなくセッションを続ける状態になれば、身体的にも精神的にも疲弊します。それが続けば、既存会員への対応だけでなく、新しく体験へ来た人への説明やコミュニケーションにも影響する可能性があります。
トレーナーには、できるだけよいコンディションで指導してもらいたい。
そのため、会員数や売上だけでなく、稼働時間、休息、報酬も含めて料金プランを考えることにしました。
トレーナーの状態を整えることは、働く人への配慮だけではありません。利用者に安定したサービスを提供するための条件でもあります。
週1回・週2回・週3回の役割を分けた
通い放題にしなかったのは、トレーニングの回数が多ければ多いほどよいとは限らないと考えたことも理由の一つです。
今回のプランは、1週間を単位として、週1回、週2回、週3回程度の利用を想定して設計しました。
週1回は、まず運動を始め、無理のないペースで習慣をつくりたい人向けです。
週2回は、定期的なトレーニングを続け、身体の変化や成果を実感したい人の中心的なプランと考えました。
週3回は、運動を習慣にするだけでなく、より高い頻度で継続的にトレーニングしたい人を想定しています。
私自身、週2回程度のトレーニングを数年間続けてきました。
始めた頃は、趣味のスポーツに必要な身体づくりが目的でした。しかし、続けているうちに、当初は想定していなかった種目でも自分なりの成果が出るようになりました。
この経験から、短期間にできるだけ多く通うことより、一定の頻度で長く続けることに価値があると考えるようになりました。
すべての人に週2回が最適だと断定するつもりはありません。ただ、想定していた顧客層のニーズと、運動を継続する現実的なペースを考えると、週2回程度が中心になるのではないかと判断しました。
料金設定はサービス内容から逆算した

料金は、提供するサービスと利用頻度を決めた後、費用を確認して設定しました。料金を決めるときは、最初に競合より安い金額を置いたわけではありません。
考えた順番は、次のようなものでした。
- 自分たちが提供できるサービス内容を整理する
- 利用者の目的に合いそうな利用頻度を考える
- 複数のコースへ分ける
- 固定費と変動費を見積もる
- 主力となるコースで事業を継続できる価格を設定する
最初に価格を決め、それに合わせてサービスを削るのではなく、提供したいサービスを先に考え、そのサービスを継続できる金額を後から計算しました。
収支計算上も、週2回程度のコースを主力と位置づけました。そのコースが一定数選ばれた場合に、家賃、人件費、広告費、各種システム費などを負担し、事業を継続できることを確認しながら価格を調整しました。
店舗づくりに使う資金と運転資金をどのように分けたかは、店舗開業の資金計画|自己資金700万円を使い切らず運転資金を残した理由でまとめています。
これは、最も安い価格を探す作業ではありませんでした。
利用者、トレーナー、事業の三者が無理なく続けられる価格を探す作業でした。
低価格・大量集客型を選ばなかった理由
低価格で多くの利用者を集めるモデルでも、仕組みを適切に構築すれば事業は成立すると思います。
ただし、そのモデルを安定して運営するには、トレーニングマニュアル、複数のトレーナー、採用と研修、予約・決済システム、店舗開発、問い合わせやクレームへの対応など、多くの業務を標準化する必要があります。
開業直後からそれを目指すと、利用者の要望に合わせて柔軟に動くことや、一人ひとりに丁寧に対応することが難しくなる可能性があります。
今回つくろうとしていたのは、地域に密着し、少しアナログな部分が残っていても、利用者の状態や生活に合わせて丁寧に対応する店舗です。
そのあり方を優先した結果、低価格・通い放題による大量集客とは別の道を選びました。
この料金設定が正しいかはまだ分からない
料金プランを設計した時点で、最も不確かだったのは、この価格で実際に選んでもらえるのかということでした。
また、主力と考えた週2回程度のコースが、本当に利用者のニーズに合っているのかも分かりませんでした。
パーソナルジムやセミパーソナルジムで提供されるトレーニングには、共通する部分が多くあります。例えば、ベンチプレスやスクワットといった種目は、他のジムでも行われています。トレーニングの種目だけで、他のジムとの明確な違いをつくることは簡単ではありません。
その中で違いが生まれるとすれば、トレーナーが利用者の状態や目的をどれだけ把握できるか、同じ種目でもその人に合った方法を分かりやすく伝えられるか、そして利用者とトレーナーの相性が合うかといった部分だと思います。
料金表やメニューの一覧だけでは、その違いは十分に伝わりません。
そこで、まずは実際にサービスを体験してもらい、トレーニングの進め方やトレーナーとの相性を確認してもらうことを重視しました。
開業前に考えた料金設定が正しかったのか。主力として想定したコースが本当に選ばれるのか。予約の取りやすさを維持しながら会員数を増やせるのか。
その答えは、実際の運営結果を見なければ分かりません。
料金設定では「誰が無理をするか」まで考える
今回、通い放題を採用しなかった理由は、単に予約枠を管理しやすくするためではありません。
通い放題にすれば、利用者が予約を取るために無理をするかもしれません。混雑した状態が続けば、トレーナーが無理をするかもしれません。価格を下げすぎれば、事業を続けるために別の部分で無理が生じるかもしれません。
料金プランを考えることは、月額を決めることだけではありませんでした。
利用者が無理なく予約できること。トレーナーがよい状態で指導できること。そして、事業として継続できること。
この三つを同時に成り立たせる方法として、今回は利用回数を決めた料金プランを選びました。
この判断が正しかったのかは、今後の実績を見ながら検証していきます。

